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2019年10月25日 (金)

俺の道 ~ 恋愛編 ❤ 第一部 ~ (28)

(28)諦めの先にあるもの

遥ちゃんは、俺にとっての『マザー・テレサ』だったと気づいた俺は、その過程の中で、一つの方程式に気づいたのだった。


それは、許した後の次のステップだったのだ。


『許す』 ⇒ 『受け容れる』 ⇒ 『手放す』 ⇒ 『与える』


そして、閃いたのだ。

その方程式の答えが何であるのかを。


『諦める』


ネガティブにではなく、ポジティブに。


諦めるとは、『明らかにする』、『明らかに見極める』、ということだ。

それは、思い通りにならないことを、思い通りにならないこととして見極めること。

勇気を持って現実を直視し、物事の本質を明らかに見て受け容れること。

執着心を手放すことだ。


これは、俺は既に頭では理解しているつもりだった。

しかし、実際には、自分のものになっていなかったのだ。


初めての離婚の時、俺は彼女から『別れたい』と言われてから、3~4ヶ月間悩みに悩んだ。

夢を追いかけ、未来のために頑張ろうとする俺。

今を楽しみたいという彼女。


俺は、彼女が求めるように休みも取るようにした。

一緒にいられる時間を増やし、出来るだけのことをしたつもりだった。

しかし、それでも彼女には不足だったのだろう。

彼女の気持ちを変えることは出来なかったのだ。


12月31日の早朝、住んでいたマンションの屋上へ一人で上り、自分自身に問うた。


「お前は、彼女のことが好きか?」

「お前は、彼女のことを愛しているのか?」


答えは『Yes』だった。

そして、更に問うた。


「ならば、なぜお前は彼女を苦しめるんだ?」

「彼女の望みは離婚だ」

「お前と一緒にいることではない」

「お前の別れたくない気持ちは、お前の欲だ」

「お前のエゴでしかない」

「お前が彼女を本当に愛しているのなら、彼女の望みを叶えてあげることなのではないのか?」


「今のお前が彼女に出来ることは、彼女を縛りつけることではない」

「彼女を自由にして上げることなのではないのか?」


俺は、登って来る朝日を見ながら、決断した。


「別れよう・・・」


そもそもの間違いは、夢がありながら彼女を受け入れてしまったことだったと思う。


T学校の校長にも言われた。

「成功したいなら彼女と別れろ」と。

「同情と愛情は違うものだ」と。


彼女を受け入れるなら、彼女を一番にしないといけなかったと、今では思う。


しかし、過去は変えられない。

俺は受け入れてしまったのだ。

そして、今、振り返ると、この決断自体は、間違っていなかったと思う。


しかし、この後がいけなかった。

俺は、彼女に優しく出来なかったのだ。


彼女一人に離婚届を提出させた。

引越しは、俺のいない時に一人でやらせた。

引越し先も、連絡先も、何も聞かなかった。


俺は、この時点で彼女との関係を断ち切ったのだ。

それ以上、自分が傷つかないために・・・。

別れても、何かあれば、彼女を守ってあげようと考える余裕が全く無かったのだ。


彼女が引越して行った数日後、それまで二人で毎朝一緒にジョギングをしていたコースを、俺はいつもと同じ時間に、いつもと同じペースで走っていた。


すると、俺の目の前を彼女が走っていたのだ。

後ろ姿は、間違いなく彼女だった。

走るペースもいつも通りだった。


一瞬、俺は声を掛けそうになってしまった。

しかし、そうなった自分を、俺は恥じた。


そして、俺は加速して彼女を抜き去った。

一度も振り返らなかった。


俺は、その後も毎日同じ時間に同じコースを走り続けた。

しかし、二度と彼女と会うことはなかった。


今の俺なら、きっと違うだろと思う。


昔の俺は、それ以上自分が傷つくことから逃げたのだと思う。

自分のことしか考えていなかったのだと思う。


俺はこの小説を書きながら、『手放すこと』と『断ち切ること』の違いを知った。

そして、方程式の最後の部分、『与える』が出来ていなかったことに気づいた。


人としての優しさを・・・。

人としての愛を・・・。


今なら、分かる。

きっと彼女は、俺のそういう所を見抜いていたのかも知れない。

彼女も自分から求婚し、決して別れるために俺と一緒になった訳ではないことに、俺は気づけなかったのだ。


俺は、彼女の言葉ばかり聞いていたのだ。

心の声を聞いていなかった。

魂を見ていなかったのだ。


俺は、彼女との離婚と同時にT学校も辞めた。

そして、不動産業へ戻った。

それから半年後、親父が自殺した。


当時の俺は、仕事に没頭した。

寂しさを感じることも無かった。

冷静に過去を振り返り反省することもなかった。

彼女のことを記憶の片隅に押しやり、消し去っていた。


2013年1月、俺は、それまで一度も彼女の夢を見たことがなかったのだが、別れてから初めて彼女の夢を見たのだった。

最初は、彼女の名前さえも思い出せなかった。


俺は、夢の中で彼女に言われた。


「はれたろさんに、もっと優しくされたかった・・・」


夢の中の彼女は、たった一言だけつぶやいて消えた・・・。


その時の俺は、その意味に気づけなかった・・・。

ただ、その時は彼女の生死が心配になった・・・。


「元気でいてくれればいいのだけれど・・・」


その後、彼女の夢は一度も見ていない・・・。


俺は、結構正夢を見るのだ。

それも、自らの危機を知らせるような夢を。

だから、気になった夢は、いつも記録しているのだ。


彼女と別れてから27年、今、やっと俺は気づけた。

俺は、忘れてはいたが、手放せていなかったのかも知れない。

彼女のことを・・・。


「Mちゃん・・・」

「お前の本当の気持ちに気づいてあげられなくて、ごめんな・・・」

「優しくしてあげられなくて、ごめんな・・・」


「俺と出会ってくれて、ありがとう・・・」

「俺を好きになってくれて、ありがとう・・・」

「一緒に暮らしてくれて、ありがとう・・・」


彼女と出会う前の俺は、スレンダーなスラッとした大人っぽい女性が好きだった。

しかし、彼女と別れてからは好みが変わり、小柄な可愛い子を好むようになったのだった。


歳を取ってきたせいか、最近はその傾向が強くなって来ているようにも思う・・・。


しかし、こうして一つずつ紐解いて来ると俺の未熟さを痛感する。

もうすぐ55になるという男が、やっと気づけたのだ。


優しい人間になると決め、遥ちゃんへのお詫びと感謝のつもりで書き始めた手紙だった。

しかし、小説風に書き始めたら、何故か27年以上前に離婚し、忘れていた彼女のことが思い出されて来たのだ。


こんなことを書く為にこの小説を書いて来た訳ではないのだが・・・。

なぜか書かずにはいられなかった・・・。


きっとあの時、振り返って声を掛けなかった俺を、別れた後の彼女に優しく出来ずに関係を断ち切ってしまった俺を、俺は心のどこかで許せていなかったのかも知れない。


しかし、あの時の俺は、自我を捨て、精一杯彼女のためを思って決断したことには、嘘偽りはないのだ。


27歳の俺は、27歳なりに精一杯やったのだ。

だから、それでいい・・・。


もしかしたら、これから本当の『恋』をするためには、当時の俺を許し、手放す必要があったのかも知れないと思うのだった。


そして、これからは、男であろうと、女であろうと、別れた相手に対しても、与え続けられる俺になっていかなければならないと思うのだ。


彼女への感謝の気持ちは、これからの俺自身の成長で返して行くしかないと思うのであった。


(つづく)

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