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2019年11月20日 (水)

俺の道 ~アラカン編~ 三峯神社の巻 (1)

(1)ハッピー&ラッキー

11月16日、午前3時30分、俺は目を覚ました。

トイレに入った後、1時間ほどゆっくりと入浴し身支度を整えた俺は、6時15分の始発バスに乗り、その約15分後、最寄駅のホームに立った。

土曜日だというのに、思ったより人が多いのに俺は驚いた。


俺は29歳で独立した以降、通勤というものはほとんどしたことがない。

自分で会社を経営し、数人の社員を抱えて会社と自宅を別にしていた時も自宅は徒歩10分以内だった。

独立前から歩合給だった俺にとっては、通勤時間ほど無駄と思える時間は無かったのだ。

常に職住接近が俺の考え方なのだ。

だから、朝の通勤ラッシュとかはほとんど知らず、この日の朝の人の多さに驚いたのだ。

それも、レジャーではなく、通勤と通学の人の多さに。


俺は横浜駅で、東急線のS-TRAIN1号に乗り換えた。

この日の俺の目的地は、秩父の『三峯神社』だった。


俺は6年前、2回目の離婚直後の11月1日に、当時TVで知った『白い氣守』を頂く為に、初めて三峯神社に行った。

その時は、まだ横浜から西武秩父までの直通など無く、池袋に前泊して、池袋から秩父へ向ったのだ。

それが今では、横浜から西武秩父までの直通があるのだ。

便利な時代だ。


そのS-TRAINの車中でのことだった。

S-TRAINは全席指定席。

俺は横浜で、周囲に乗客が少ない席を駅員に選んで貰った。


俺の席は、5号車の6A席だった。

座席は通路を挟んで左右に2席ずつ進行方向に向って座る座席だった。

俺の席は、乗車口を背後にした左側の窓側の席だった。


横浜で乗った時は、俺の右側の3席と前列には、一人も乗客はいなかった。

どこの駅だったのかは覚えていないが、都内に入ってから、30代の夫婦と7~8歳位の女の子の3人家族が俺の前の列の座席に並んで座った。


俺の前の窓側に女の子が座り、その右隣にお父さん、そして通路を挟んだ並びの席にお母さんが座った。

俺は、時々車窓から外を眺めながら、好きな読書に耽っていた。


この日は三峯神社まで片道約5時間の旅だ。

俺は、新書を2冊持参して来た。

1冊では多分、足りなくなると思ったのだ。


途中、俺の右斜め前に座っていた女の子のお母さんが立ち上がり、進行方向左側の乗車口まで行って何やら写真を撮り始めた。

それに気づいた俺も車窓から外を見ると、綺麗な富士山が目に入り、俺も何枚かの写真を撮った。

場所を確認すると、石神井公園駅を過ぎた所だった。

石神井公園駅を過ぎると、急に田園風景が多くなって来た。

丁度俺が小中学生時代を過ごした場所で、相変わらずの田舎だと思った。


富士山が見えなくなり、俺はまた読書に耽った。

気づくと電車は飯能に到着し、次は終点の秩父だった。

その時、気づかない内に通路を挟んだ右側の2席には若い男性二人がいて、その男性二人と、その前に座る女の子のお母さんが立ち上がり、座席を反転させたのだった。


俺は、どうしたのかと思いながらも読書を続けていると、俺の前の席の女の子のお父さんが、「向きを変えませんか?」と言って来たのだ。

俺が聞くと、電車はここで反転し、進行方向が変わるとのことだった。


俺はやっと合点して、一緒に座席の向きを反転させ、座り直したのだった。

そして電車が再び動き出し、少しして俺は、あることに気づいたのだった。


「あれ?」

「もしかして、俺が女の子のお母さんと席を変わってあげれば、家族3人で向き合って座れるんじゃない?」


俺は、思ったのだった。

しかし、内心では、もう次は終点だしなぁという思いもあった。

そこで俺は時計を見た。

終点の秩父までは、まだ30分の時間があった。


俺は女の子のお母さんに声を掛けた。


「良かったら、席、替わりましょうか?」

「替われば、ご家族で向き合って座れるでしょ?!」


お母さんは最初遠慮した。

しかし、俺は言った。


「お嬢さんもその方が嬉しいでしょ」


「良いんですか?」


「良いですよ、逆に今まで気づかずにごめんなさいね」


俺は、そう言って立ち上がり、再度座席を反転させたのだった。

そして、旦那さんと女の子からもお礼を言われて席を替わったのだった。


その後、その家族が向き合って楽しそうにおしゃべりしている姿を見て、俺は無性に嬉しくなった。

声を掛けて席を替わってあげて良かったなと思った。

そして、今日は朝からなんてハッピーなんだろうと思ったのだ。


西武秩父に到着する前、俺は車内のトイレに行った。

トイレは隣の4号車だった。

トイレは使用中だった。

俺は、待つことにした。

しかし、全然出て来る気配が無かった。


俺は、随分長いトイレだと思った。

時計を見ると、あと5分位で到着だった。

トイレは、秩父の駅に着いてからにするかと思いかけた時だった。

突然音がして、扉が開いた。


中から、豹柄ではないのだが、似たようなパーカーを着て、フードを被り、大きめの黒ぶち眼鏡を掛けた暗い感じの若い女性が出て来た。

俺は入れ替わりで直ぐにトイレに入った。

そして、便器のふたと便座を上げると驚いた。

便器の中には、トイレットペーパーがふんわりと被せるように一杯入っているのが目に飛び込んで来たのだった。


俺は内心で、きっと水が流れずに、それを隠すのに時間が掛かったのだろうと思ったのだ。

そして、女性だからきっと恥ずかしくて困ったんだろうなと、少し可愛そうな気がしたのだった。


俺は、トイレが流れないものだと思い、そのペーパーの上から小用を済ませた。

そして、女性と同じようにペーパーを被せようかと思ってペーパーホルダーに目をやると、その上に非常に分かり難い、『流す』のボタンがあったのだった。

俺は一応ボタンを押してみた。

すると、便器の中に一杯だったペーパーは一気に流れたのだった。


俺は思った。

きっとあの子は、『流す』のボタンを見つけられなかったんだろうなと。


俺がトイレを出て席に戻ると、右側の3人家族は、相変わらず楽しそうに話していた。


直ぐに電車は終点の『西武秩父』駅に到着した。

3人の家族を見ると、身支度に時間が掛かっている感じだった。

俺は3人を残して、先に電車を降りた。


そして、人の流れのまま改札口に向う階段を上った。

階段を上り切ったところで、俺は首筋が妙に涼しいと感じた。

そして、マフラーが無いことに気づいたのだった。


俺は慌てて、Uターンして電車に戻ろうとした。

しかし、人の流れはみんな上がって来る人たちばかりだった。

ホームに向う下りる階段は、階段の左側に一人分の狭い幅しかなかった。

そして、俺の前を老夫婦がゆっくり下りていた。

老夫婦を抜かすことも出来ず、俺はやきもきした。


俺は思った。


「これじゃあ、間に合わないなぁ・・・」

「しょうがないかぁ・・・」


俺が諦めようとしたその時だった。


上って来る人ごみの中で、女の子のお父さんが右手に俺のマフラーを持って俺とすれ違いそうになり、声を掛けてくれたのだ。


「マフラー忘れたのに気づいたんですけど、直ぐに行ってしまったので・・・」


俺は言った。


「ありがとうございます!」

「助かりました!」


俺はマフラーを受け取り、数段下りかけた階段をまた上ったのだった。

俺は、階段を上ってから、再度お礼を言って、その家族と別れた。

内心、俺は思った。


「さっきやったばかりの親切が、こんな形で直ぐに返って来たんだなぁ」

「今日は、なんてツイてる日なんだ!」


俺は、この先が楽しみになった。


(つづく)

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