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2019年11月28日 (木)

俺の道 ~アラカン編~ 三峯神社の巻 (9)

(9)一期一会

随身門から参道を下った俺は、行く時に入って来た鳥居の前で足を止めた。

そして鳥居に向って一礼をし、再び鳥居をくぐり、振り返って再度一礼をした。

入る時と同様、やはり鳥居の内と外の違いを感じなかった。

前2回は、出る時も内と外の違いをハッキリと感じられたのに、今回は感じられなかったのだった。


俺の感度は鈍ってしまったのかも知れない。

しかし、それならそれで良いと思った。


俺は、人の気持ちとか色々なことで、敏感過ぎるところがあり、内心では少し鈍感になりたいと思っていたのだ。

些細なことで気を使い過ぎて疲れるのだ。

鈍すぎるのもどうかとは思うのだが、ある程度は大らかな方が良いと思うのだ。

そういう意味では、今回感じなかったのは良いことなのかも知れないと思ったのであった。


鳥居を出た俺は、正面に見える、『焼きシイタケ』に真っ直ぐ向った。

この日のシイタケは、『原木シイタケ』と書かれていた。


俺は、シイタケを焼いていたおじさんに1本注文した。

おじさんから2~3分かかりますよと言われ、俺は了承した。

俺は、焼いて貰っている間、道路の向いにある喫煙場所で一服した。


シイタケは、タバコを吸い終わらない内に焼きあがった。

俺は、200円を払って焼きたてのシイタケを手にした。

シイタケは醤油で焼かれていて、少し残念だった。


俺は、紅葉をバックにシイタケの写真を撮った。

そして、直ぐには食べずにシイタケを手にしたまま、『ヤマメ』のある蕎麦屋に向った。

俺は、『ヤマメ』1つと500mlの缶ビール1本を注文して手にした。

外の小さな囲炉裏を模したテーブルが空いていたから、そこに座ろうとしたのだが、5~6人のおばさんに先に取られてしまったのだった。


俺は道路の向いにあるベンチに行った。

しかし、ベンチに置いて食べるのは何かぎこちなく感じた。

目に入ったのは、向い側の4人掛けのテーブル席に一人で座って餅を食べている、年配の女性の後ろ姿だった。

俺は、合い席をさせて貰おうと、女性に声を掛けて合い席をさせて貰った。

女性は俺より少し年上な感じで品のある感じの人だった。


俺がヤマメを頬張っていると、女性は何の魚なのか聞いて来た。

それをきっかけに数分の会話となった。

女性は、今回が初めてでバスツアーで来たと言った。

そして、もちを食べ終わると、席を立って行った。


俺はこう言う時、雑談が苦手なせいで、あまり会話をしないのだが、話してみると、こういう取りとめのない話しもたまには良いなと思ったのだった。


俺は、ヤマメとシイタケで缶ビールを1本空けた。

そして、今度は350mlのグレープフルーツの缶チューハイとみそこんにゃくを買ってきた。

みそこんにゃくを食い終わると、再度ヤマメが食べたくなった。

しかし、ヤマメを前に隣の芋田楽も気になり、俺は変更して芋田楽にしたのだった。


芋田楽を食べてみて、やっぱヤマメにすれば良かったと思った。

芋田楽で2本目の缶チューハイも空けた。


俺は席を立ち、もう一本シイタケを食おうと思った。

同じグレープフルーツの缶チューハイをもう一本買った。

そして、焼きシイタケに向った。


焼きシイタケを待つ間、俺は缶チューハイ片手に一服した。

時間を見ると、13:30を少し過ぎたところだった。

丁度秩父駅行きのバスが出た頃だと思った。

次のバスは14:30だった。

俺はそのバスで帰る予定にしていた。


一服を終え、新たなシイタケを手にした俺は、ゆっくりと食べながらバス停に向った。

シイタケを食べ終え、3本目の缶チューハイも空いた頃、俺はバス停に着いた。

バス停には、次のバスを待つ人が既に十数人並んでいた。


その中には、朝一緒だった豹柄の様なパーカーの女性もいた。

その後ろにやたらイケメンな20代の青年がいて、その青年が最後尾だった。

青年は建物の縁に腰かけ、その後ろがベンチで、俺はベンチに腰掛けた。


豹柄の様なパーカーの女性は、立って本を読んでいた。

本のタイトルは見えなかったが、読んでいる本はアガサ・クリスティだった。

何か意外な感じだった。


俺がベンチに腰掛けると、青年が右側になり、テーブルのコーナーに座っているような形になった。

俺が青年に話し掛けると、青年は愛想よく答えた。

28歳で六本木の外資系証券会社に勤めていて、商品企画のような仕事だと言った。

リュックを背負ってジョギングのようなスタイルだったことから、それを聞くと、来る時は途中でバスを下りて、登山口から歩いて上って来たと言った。

どうやら、彼女と一緒に来たのに、彼女はバスで、彼は一人で登って来たらしい。


青年が立つと背は180を超えるくらいあり、笑顔の目は錦戸亮に似ていた。

俺がそれを言うと、若い頃は良く言われたらしく、最近では久し振りだと言った。

俺からすると、背が高く、錦戸亮より遥にカッコイイ青年だった。

彼の彼女がどんな女性なのかと俺は楽しみになった。


バスの発車時刻の20分ほど前に、俺はトイレに行った。

俺がトイレから戻っても、青年の彼女は来ていなかった。

俺がそれを聞くと、青年は指を指したのだった。


俺の二人後ろの位置のベンチに座っていた。

俺が、ここに呼んだら良いのにと言っても、青年は何故か素っ気なかった。

ベンチに座る彼女は俯き加減に下を向いていた。

俺は内心で、ケンカでもしたのか、彼があまり好きではないのかと考えた。


俺は、彼女が可哀そうだよぉと言って、席を立って彼女に声を掛けた。


「こっちに来たいよねぇ?」


彼女は、俯きながらも小さく頷いたのだった。

俺は、じゃあおいでと彼女を呼び、俺と青年の間に並ばせたのだった。

立っていた青年の横に並んだ彼女は、同様に彼の横に立っていた。

俺は、座っていたベンチを少し移動し、二人に座るように促したが、二人は座らなかった。

下から見た彼女は、何か凄く暗い感じだった。

さっきまで愛想良く話していた青年の彼女にしては、何か違和感みたいなものを感じたのだった。


俺は青年との会話を止め、もう一度トイレに行こうかと考えた。

その時、バスが来たのだった。

俺はトイレを諦めバスに乗った。

先に乗車した人たちは後方の座席から座って行っていた。


俺は青年とは逆の前方の席に行った。

すると、豹柄のようなパーカーの女性が、来る時に俺が座っていた左側の最前席に座っていた。

空いていたのは、その後ろで、俺はその席に座った。

その席はタイヤの上の席で、座席と足場の段差が小さく、足をかがめないとダメで、座ってから失敗したと思った。

しかし、時既に遅しで、周りを見回したが、他に空いている席は無かった。


帰りのバスは二台で、立っている人はいなかった。

去年は三台のバスが満員で、俺は立って帰ったのだった。

そのことから今回は早目にバス停に行って待ったのだが、俺の取り越し苦労だったようだ。


しかし、そのお陰で、バスを待っている間、見ず知らずの青年と会話が出来たのだ。

蕎麦屋ではご婦人と会話が出来たのだ。

これまでの俺だったら、あまりやらないことだった。


これまでの俺だったら読書だったのだ。

俺みたいに厳ついのが読書をしていたら、それこそ話し掛けられないと思う。

姿かたちは違えど、多分、これまでの俺は、豹柄のようなパーカーを着た女性と同じだったのかも知れないと思ったのだった。

だから、朝から気になっていたのかも知れないとも思った。


俺の中で何か変化が起きているのかも知れないと思った。

俺は、こういう見ず知らずの人との一時の関わりも悪くないなぁと思った。

そして、こういうのを『一期一会』と言うのかなぁと思ったのだった。


(つづく)

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