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2019年12月26日 (木)

俺の道 ~アラカン編~ 第60回AF研修の巻 (5)

(5)信頼の証とは

今回の研修二日目は、前日の『心構え+モティベーション』の継続状態からの開始となった。

本来であれば、初日の終了時点で全員が『心構え』を終えて、次の項目である『モティベーション』に新たに挑む形になるのだが、この日は『心構え』の合格レベルに到達している人が、まだ半数にも達していなかったのであった。


そのような状況の中、本来は二日目の夕食前に『モティベーション』の試験を全員が合格し、夕食後の夜の部で次の項目へ行くのが理想なのだが、夕食前に『心構え+モティベーション』を合格していた人は、まだ半数にも達していなかったのであった。


夕食後は、インストラクターが中心になっての試験受けとなった。

その中で、最初の段階で、俺に義母の介護のトラウマを吐露した男性が、あれ以来2度目の俺との試験となったのであった。


彼は挨拶をし、俺の前の席に着席した後、試験内容を話す前に、俺に礼を言いたかったと言い、初日の俺との試験の後、他のインストラクターやトレーナーたちから色々なことを言われていく中で、俺に言われたことがやっと理解出来たと話したのであった。

そして、やっと自分を許す事が出来た、諭して頂いてありがとうございますと丁寧に礼を述べたのであった。


その顔は、笑顔だった。

この時俺は思ったのだった。


俺が今回の研修で自分自身のテーマとしていた、『静かに、穏かに、それでも心に響く話し方』とは、『諭すこと』だったのだと、この時彼に気づかせて貰ったのであった。

静かに、穏かに、それでも相手の心に響かせ、そして気づいて貰うこと。


今回は、俺との対話の中で、直接の気づきまでには至らなかったが、彼の心に俺の言葉が響いていたことが、彼の言葉から実感することが出来たのだった。

そして、他のインストラクターやトレーナーたちのお陰で、彼は気づくことが出来たのだ。


俺は彼に、俺もそう言って貰えると嬉しいと言って礼を言った。

彼の話からは、『心構え』は合格レベルにあることは、十分に伝わって来たのだった。

しかし、それだけではダメなのだ。


俺は彼に、『変わりたい!変わるんだ!』という、想いは伝わって来るが、これまでの考え方ややり方である、『心のクセ』を直す覚悟を聞いた。


彼は、『あります!』と答えた。

その意気込みは十分伝わって来たのだった。

俺は、『心構え』に対する合格を与えた。


そして、続けて聞いたのだった。


「では、その心構えを基に『ありたい自分』になる為に、今後具体的にどうしていくんですか?」


彼は、必死になって俺に話しをしたのだった。

奥さんと娘を幸せにするために頑張ると。


彼の想いは痛いほど伝わってきたが、俺はそれではダメだと言った。

それだけではダメなんだと。


「今までだって、そうやって頑張って来てたんでしょ?」

「その結果、自分を責めることになり、病気になっちゃったんじゃないの?」

「また、同じことを繰り返すつもりなの?」


それでも彼は、諦めずに必死に俺に向って来たのだった。

彼は、自分が頑張って奥さんと娘を絶対に幸せにすると、何度も俺に訴えて来たのだ。

俺はそんな彼に言った。


「何かを買って貰ったり、して貰ったりした事は本当の幸せなのかなぁ?」

「そう言うのは、一時的な喜びではあるけど、本当の幸せっていえるのかなぁ?」

「俺は、少し違うと思うんだけどなぁ・・・」


「貴方が奥さんとお嬢さんのことを大切に想う気持ちはわかる」

「それは、貴方だけじゃなくて、奥さんやお嬢さんも同じなんじゃないかなぁ・・・」

「そう考えた時、貴方一人が頑張って、貴方から一方的に与えられた幸せで、奥さんとお嬢さんは、本当に幸せなのかなぁ・・・」


彼は言葉に詰まったのだった。


俺は彼の中での葛藤を感じたのだった。

そして、続けて話したのだ。


「幸せって、誰かにして貰うものなのかなぁ?」

「幸せは、人それぞれが自分で感じるものなんじゃないのかなぁ?」


「どう思います?」


「はい・・・」

「私が幸せにしたいんです・・・」


「そうだよねぇ・・・」

「奥さんやお嬢さんが幸せになってくれると、貴方は嬉しいもんねぇ・・・」


「でもさ、貴方が一人必死になって、犠牲になってさ・・・」

「その犠牲の上で、貴方から一方的に与えられた幸せで、奥さんやお嬢さんが本当に幸せを感じられると思う?」


「!」


彼は、何かを感じたようだった。

俺は続けて話した。


「誰かの犠牲の上に幸せは成り立たないんじゃないかなぁ・・・?」

「俺も若い頃は、自己犠牲の精神で、一人で悪戦苦闘していた時もあったんだよね」

「でも、それだと、どんなにお金があっても幸せにはなれないんだよね」


「俺たちの世代はさぁ、とかく精神論で何とかしようとするけど、それだけじゃダメなんだよ」

「具体的な方法論を持っていないとダメなんだよ」

「精神論も時には大切なんだけどね、それだけではダメなんだよ」


「それは、貴方自身、既に気づいているんじゃないかなぁ?」

「でも、どうして良いか分からない・・・」

「だから、最後は精神論に逃げるんだよ」


「だから、心構えが出来ているのに合格出来ないんだよ」

「これまで、良い所まで行きながら合格出来ないのには訳があるんだよ」


彼は、これまでの試験で何度か仮合格のラインには達していたのだが、最後の合格には一歩及んでいなかったのだった。


彼は言ったのだった。


「教えて下さい!」


俺は言った。


「いいよ・・・」

「でも、聞く以上は、俺を信じて最後までやり抜いて貰わないとダメだよ」


「はい!」


「今の貴方は、自分一人の力で何とかしようとしているんだよ」

「貴方は、自分を犠牲にして、奥さんやお嬢さんを幸せにしようとしているんだよ」


「貴方は、奥さんやお嬢さんが幸せになってくれれば、自分が幸せになれると思っている」

「だから、必死になって奥さんとお嬢さんを幸せにしようと思っているんだ」

「違いますか?」


「違いません、そうです」


「では、聞くけど、貴方が奥さんやお嬢さんの立場になったとして、お父さん一人が自己犠牲の精神で、苦労して何かを買ってくれたり、何かをしてくれたりして、貴方は本当に幸せだと思えますか・・・?」


「・・・」


「人は何かをして貰えれば、それは嬉しくて喜ぶかも知れない」

「でも、それは一時的な喜びではあっても、本当の幸せではないんだよ」


「これは、さっきも話したよね」

「でも、敢えて繰り返して言うよ」


「なぜなら、今までの貴方はそれが正しいことだと思っていたんだよ」

「でも、これまでの貴方が生きて来た結果として、それは間違っていたこと、正しくなかったことを、貴方が心底受け入れて、自覚しないといけないんだよ」


「だから、また、同じ過ちを犯そうとしているんだよ」

「わかるよね?」


「はい・・・」


「だから、『変わる』という決心をし、変わる為にはどんなに不慣れなことにでもチャレンジして・・・」

「はじめは違和感を抱えながらも、それが違和感を感じずに、意識しなくても無意識で出来るようになるまで、諦めずにやり続ける覚悟を持ったんだよね?」


「はい!」


「でも、貴方は懲りずにまた同じような考え方をしていたんだよ」


「はい・・・」


「それは、貴方が50年以上生きて来た中で身に付いてしまった、『心のクセ』なんだよ」

「クセってさ、直すのって凄く大変だと思わない?」


「思います・・・」


「そうだよねぇ」

「だから、『心構え』が大切なんだよ」


「はい」


「話しを基に戻すけど、まず家族を幸せにしたいと思うなら、まずは、貴方自身が幸せにならないといけないんだよ」


「貴方自身が幸せになることによって、家族も幸せになれるんだよ」

「誰か一人が苦しんでいたりしていては、みんなはなれないんだよ」

「一人一人が自ら幸せになることで、みんなが幸せになれるものなんだよ」


「わかるよね?」


「はい」


「そう考えたら、仕事で働いている時に、全く幸せを感じられない、あるいは頑張るだけで、ストレスばかりを抱え込むような働き方をしていては、幸せにはなれないんだよ」


「なぜなら人は、一日24時間の内、起きている時間の大半を『仕事』という時間に費やしているからなんだよ」

「だから、人生の大半は、働いている時間になるんだ」

「その働いている時間そのものが、自分の生きがいや遣り甲斐になる働き方をしないと、人は幸せには遠く離れてしまうことになるんだよ」


「わかるよね?」


「はい・・・」


「じゃあ、聞くけど、どうしたら働くこと自体が生きがいや遣り甲斐になるのかな?」

「人は、やりたくない仕事も一杯やらなきゃいけないよねぇ」

「そういう状況の中で、どうしたらいいと思う?」


彼は、またしても精神論を述べたのであった。

そして、俺は言ったのだった。


「ほら、また精神論だ」

「それが、貴方の心のクセなんだよ」


「・・・」


「ここからが、最も重要なことだから、良く聴いてよ」


「はい・・・」


「まず最初に、一緒に働く人たちを家族の様な大切な仲間だと信じるんだよ」

「そして、俺の場合だけどね、次にやったのは・・・」


「まず、みんなに俺の悪い所や直したい所を話して、そういう悪い俺が出て来ちゃった時は、注意してくれるようにお願いしたんだよ」

「俺よりも遥に若い子たちに」


「!!!」


彼は、衝撃を受けた様子で涙を流し始めたのだった。

俺は続けて話した。


「もう気づいたよね・・・」

「人は、自分の弱さを隠そうとするんだよ」

「そして、強がるんだよ」


「その結果、無理をすることになるんだ」

「そして、自分の悪い所を指摘されると、責められているように感じるんだよ」

「そして、周りの人を敵だと勘違いしてしまうんだよ」


「その結果、周りを頼らずに一人で何とかしようとするんだよ」

「お母さんの介護の時もそうだったんじゃないの?」


「本当はみんな、貴方の為を思って、心配して言ってくれているのに」

「みんなは貴方を助けたくて手を差し伸べてくれていたのに、貴方はそれを拒絶して来たんじゃないの?」


彼は、号泣しながら、無言で何度も頷いたのだった。


俺は、彼が落ち着いて顔を上げるのを待った。

彼が顔を上げると、彼の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

俺も同じだった。

俺は、続けて話した。


「人は、自分の弱さを隠して強がろうとする」

「でもそれは、周りから見たら、自分の弱さを晒していることなのに、本人はそれに気づかないんだよ」


「逆に、自分の弱さを認めて、受け入れて、その弱い部分を仲間にカバーして貰おうとするのが、本当に心が強い人のすることなんじゃないのかなぁ?」


「自分の弱さを必死に隠して強がっている人と、自分の弱さを認めて協力を求める人のどちらがカッコイイと思う?」

「どちらが、心が強い人間だと思う?」

「どちらが魅力的な人間だと思う?」


「後者ですね・・・」


「そうだよね・・・」


「更に言えば、自分から、そういう悪い自分が出て来てしまった時に注意してくれるように頼んでおけば、注意して貰ったら、それは感謝の気持ちになるんだよ」

「あっ、またやっちゃった、ごめんなさいって・・・」

「でも、注意してくれて、ありがとうってね・・・」


「俺なんか、何度も注意されたよ」

「でも、それが続くと、その内注意される時の流れとか雰囲気が分かって来て、注意される前に自分で気づけるようになるんだよ」


「同じことを繰り返しそうになった時に、自分の中で、あっ、やばいってブレーキが掛かるようになるんだよ」

「そうなってくると、知らない内に意識しなくても注意されなくなってくるんだよ」


「でも、頭の中だけで、自分の精神力だけで何とかしようとしているとさ・・・」

「頭では最初の内は注意してくれていると思っていても、それが続くと、次第に心の中では自分が責められているように感じて、相手を責めたくなったり、自己嫌悪や自己否定の方へ気持ちが行ってしまうんだよ」


「特に、貴方のように責任感の強い人はそうなりがちなんだよ」

「俺もそうだったんだよ・・・」

「そうすると、また元に戻ってしまうのと同じなんだよ」


「わかるかな?」


「はい、確かにそうですね・・・」


「人間は、何度も同じミスを繰り返す生き物なんだよ」

「でもそれを変えて行く為には、自分一人の力ではダメなんだよ」

「そこで、諦めずに何度でも注意してくれる、頼れる仲間の存在が必要なんだよ」


「そして、その注意を、謙虚に感謝の気持ちを持って受け止められる心が必要なんだよ」

「その心を創る為には、自分で自分の弱さを認める勇気が必要なんだよ」

「そして、それを注意してくれる様にお願いする勇気」


「それは、相手を信じて頼るということなんだよ」

「それこそが、相手を信頼するということなんだよ」


「貴方は、逆の立場になって、もし、自分のダメなところや弱い所を打ち明けられて、それを直す為に力を貸して欲しいと頼まれたらどう思う?」


「嬉しくないか?」

「自分は信頼されていると思わないか?」

「この人の力になりたいと思わないか?」


「思います・・・」


「そうだよねぇ・・・」

「人は信頼には、信頼で応えようとするんだよ」


「じゃあ、そういうお互いの信頼関係を築くにはどうしたら良いと思う?」


「自分から信頼する・・・?」


「そうなんだよ」

「その信頼の証が、自分から弱さを打ち明けて、それを直すために頼ることなんだよ」

「逆に、弱さを隠すと言うことは、相手を信じていない証しになってしまうんだよ」


「わかるよね?」


「はい」


「あなたは、これまで自分の弱さを必死に隠して、それを一人で何とかしようとして来ていたんだよ」

「それは、相手を信頼していない証拠になってしまっていたんだよ」


「貴方は、周りに迷惑を掛けたくないと思って来たのかも知れないけど、その思いが逆に、みんなを信じずに迷惑を掛けて来ていたんだよ」


「もう、わかるよね?」


「はい」


「貴方は、もう自分の弱さに気づいたはずだ」

「自分自身がそれを認めて、受け入れて、自分の口からみんなに話し、みんなに力になってくれるように頼むんだよ」


「自分の周りにいる人たちは、みんな仲間なんだと信じて頼るんだよ」

「そうすれば、周りのみんなも貴方を信頼してくれるんだよ」

「そういう、互いに信頼関係で結ばれた仲間と、毎日生き生きと働けたら幸せだと思わないか?」


「思います!」


「毎日働くこと自体に幸せを感じられるようになったら、自然と家族みんなも幸せになれると思わないか?」


「思います!」


この時の彼は、既に泣き顔ではなく、笑顔になっていたのだ。

俺は、彼に問い掛けたのだった。


「それが貴方に出来るかな?」


彼は答えた。


「できます!」

「絶対にやります!!」


俺は言った。


「貴方の目を見ていればわかる・・・」


俺が次の言葉を言おうとした、その瞬間だった。

彼はおもむろに俺に握手を求めて来たのだった。

俺は笑いながら言ったのだった。


「まだだよ・・・」

「では聞く・・・」

「この研修を終えて会社に戻って、一番最初にやるべきことは何だと思う?」


「みんなにこの研修で気づかせて貰ったことを話して、協力して貰えるようにお願いします」


「そうだよな、でもそれは、さっき俺が話したことだよな・・・」

「それは間違いではない」

「でも、その前にやるべきことがあるんじゃないのか?」


「・・・」


「みんなこれまでずっと、貴方の事を心配してくれていたんじゃないのか?」


彼は、ハッとして、涙を流して話し始めたのだった。


「そうですね・・・」

「まずは、みんなに謝らないと・・・」


「そうだよなぁ・・・」

「なんて謝るんだ?」


「今まで心配かけて申し訳無かったと・・・」


「そうだよな」

「じゃあ今、俺をその仲間だと思って謝ってみたらどうだ?」


彼は、俺を会社の仲間に見立て、これまでの自分の非を涙ながら詫びたのだった。

俺は、彼の心からの懺悔を感じ、涙しながらその想いを受け止めたのだ。

そして、俺は言ったのだった。


「そうだよな・・・」

「それでいい・・・」

「心から謝った時、今度はありがとうという気持ちも生まれて来るだろ?」


「はい」


「そういう気持ちになった時、本当に心の底からみんなを仲間だと思えるだろ?」


「はい!」


「これで貴方は、本当のスタートラインに立ったんだ」

「今、俺と話したことを会社に帰ったら、必ず実践するんだ」


「出来るよね?」


「はい!」

「必ずやります!」


「約束だぞ」


「はい!」


「信じるぞ」


「はい!」

「信じて下さい!!」


「よし!」

「俺は貴方が絶対に変われると信じる!」


「合格!!」

「バン!!」


「おめでとう!!」


俺は立ち上がり、彼と握手をし、そしてハグをした。

そして、彼の耳元で囁いた。


「自分の周りには敵は一人もいない、自分の周りはみんな仲間なんだ」

「そういう世界を『無敵』と言うんだ」

「無敵の世界を、貴方が創るんだよ」


「はい!!」


「貴方なら出来る」

「俺は、そう信じているからな!」

「負けるなよ!」


「はい!!」


こうして、彼の長かった『心構え+モティベーション』の試験は終わりを告げたのであった。


今回の研修では、俺は彼を多少なりとも諭せたのかも知れず、俺が目指すべき方向をハッキリと感じることが出来たのだった。


更には、彼の介護による心の傷は、これからの高齢化社会では、既に当たり前に近い世界になっているのかも知れないとも感じたのだった。

そして、『老い』という問題に対し、俺自身が改めて考えなければならない問題なのかも知れないと痛感させられたのであった。


彼との対話は、初日と二日目それぞれ一回ずつで、時間にしたら合計で90分前後だったのではないかと思う。

これまでの『心構え』と『モティベーション』の項目が別の時は、1回当たりの時間を短くして回数を多くしていたのだが、今回の合体パターンでは、試験受けの回数は減り、その分一回の時間が長くなっていたのだ。


その分、彼の様なケースで深く話しを聴くことが出来たことは、俺にとっても大きな学びとして深く心に刻む事が出来たのだった。

もしかしたら、合体パターンの方が俺には向いているのかも知れないと思ったのであった。


(つづく)

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